百日咳

百日咳は百日咳菌を原因とする急性の呼吸器感染症で、感染者の飛沫(咳、くしゃみに含まれる水滴)を吸い込むことにより感染します。乳幼児、特に2歳以下に多く見られ、生まれたばかりの赤ちゃんでも感染することがあります。名前のとおり激しい咳が特徴的であり、特に3か月未満の乳児など、ワクチン未接種児が百日咳にかかると重度の呼吸器症状をきたすことがあります。家族内や、保育所、幼稚園などの集団生活の場で感染が広がります。

 

2018年の全国統計では、5歳から15歳未満までの学童期の小児で全体の64%の患者数を占め、さらには30〜50代の成人においても全体の16%の患者数がみられました。全体の58%に当たる6,518例が4回の百日せき含有ワクチン接種歴があり、5〜15歳未満に限定するとその割合は81%(5,768/7,131例)でした。このように、ワクチン接種歴のある学童の間で感染が多くみられることが現在の問題となっています。

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症状

年齢と過去の予防接種歴によって症状が異なります。

ワクチン未接種の小児感染者における典型的症状は、大きく次の3つの病期に分けられます。

 

(1)カタル期

風邪に似た咳やくしゃみなどが約2週間続きます。

次第に咳の回数が増えて激しくなっていきます。

 

(2)痙咳(けいがい)期(咳発作期)

この時期に百日咳に特徴的な「咳の発作」が見られます。濃い粘液を気管支から追い出すために、速く頻回で、息を吸い込む間もないほど連続した咳の発作が起こります。連続した咳の終わりには、特徴的な高音を伴った長い息の吸い込み(笛を吹く様な音)が聞かれる場合もあります。この一連の「咳の発作」が連続して繰り返しみられます。また、息を詰めるため、顔のむくみや点状出血、眼球結膜出血、鼻出血がみられることもあります。

乳児期では、咳がなく、単に息を止めている無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停止へと発展することがあり最も危険な時期となります。

 

(3)回復期

激しい咳発作は次第に弱まり、2~3週間でほとんど認められなくなります。忘れた頃に発作性の咳が出てくることがありますが、約2~3カ月で回復します。

 

 

※ワクチン接種児や年長児、成人では、長引くしつこい咳がみられますが、特有の発作性の咳はみられずに回復に向かうため、百日咳との診断を受けずに見逃されやすくなります。

診断と治療

百日咳は、百日咳菌の遺伝子を検出する検査や血液検査等で以前よりも感染を早期に診断できるようになりました。

治療は、百日咳菌に対して有効な抗菌薬が用いられます。特にカタル期での治療開始が有効です。無治療では、患者からの菌排出は咳の開始から約3週間持続しますが、適切な抗菌薬治療により、服用開始から5日後には菌の排出はなくなります。痙咳期の咳に対しては鎮咳去痰剤、場合により気管支拡張剤などが使われます。

予防接種

感染力が強く、予防なしでは感染者が多数に及ぶため、ワクチン接種による予防が最も効果的かつ重要です。わが国では四種混合ワクチンが定期接種に導入されています。

しかし、ワクチン接種歴のある就学前児の抗体価が低下し、学童期以降で多くの百日咳患者が発症している現状を踏まえて、日本小児科学会は 2018年に、学会が推奨する予防接種スケジュールを変更しました。変更点は以下の2点です。

  •  就学前の三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風混)の追加接種(任意接種)を推奨に加えた。
  • 11歳で定期接種の二種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風)を、三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風)でも代替可能 (任意接種)とした。

今後、学童期以降の患者数を減らすために、現行の定期接種に加えた、新たな追加接種の定期化が望まれます。

まとめ

病原体

百日咳菌

感染経路

飛沫感染・接触感染

潜伏期間

710

周囲に感染させうる期間

感染力は感染初期(咳が出現してから2週間以内)が最も強い。抗菌薬を投与しないと約3週間排菌が続く。抗菌薬治療開始後7日で感染力はなくなる。

登園・登校基準

特有な咳が消失するまで、又は5日間の適正な抗菌薬による治療を終了するまで